ヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV-I)は、成人T細胞白血病(ATL)の原因ウイルスであることが知られているが、生体内での腫瘍化機序の詳細は依然として完全には解明されていない。本研究では、HTLV-IによるATL発症機序の解析のためのモデルとして、HTLV-Iの複製に重要な因子であるヒトCRM1トランスジェニックラット(Tgラット)を作製し、Tgラット由来T細胞内でのHTLV-I複製を検証した。はじめに、TgラットにおけるヒトCRM1蛋白の発現をウエスタンブロッティング法により検証したところ、脳、胸腺、脾臓、腎臓、および肝臓を含む様々な臓器で発現していることが確認された。次にTgラットの胸腺、および脾臓からHTLV-I感染T細胞株を樹立し、そのp19Gag抗原産生量を野生型ラット由来細胞と比較したところ、Tgラット由来細胞のGag産生は10〜1000倍亢進していることが確認された。両細胞間でTaxおよびRexの発現量に有意な差は認められなかったことから、p19産生亢進にHTLV-Iの調節蛋白の発現増強は関与していないものと考えられた。また、両細胞間で細胞増殖速度に関しても有意な差は認められなかったことから、感染細胞数の増加がp19産生亢進の原因である可能性も否定された。以上の結果から、ヒトCRM1遺伝子をラットに導入することにより、HTLV-Iの標的細胞であるT細胞におけるウイルス産生が増強することが確認され、本TgラットがHTLV-I感染モデル動物として有用であることが示された。
|