Epstein-Barrウイルス(EBV)は全世界人口の約95%が保有するヒトB細胞、上皮指向性ヘルペスウイルスであり、バーキットリンパ腫、ポジキン病及びAIDS誘導性リンパ腫の発症に深く関わっていることが知られている。EBVはB細胞における感染成立・腫瘍発生過程においてヒト免疫監視機構を巧妙に回避するが、その分子機構は未だ明らかになっていない。本研究ではEBVの免疫監視回避機構の解明を目的として細胞死抑制・増殖シグナルを供給するEBV潜伏感染分子をB細胞特異的に発現するトランスジェニックマウス(tg)の作成を行い、それら分子のB細胞分化活性化に対する影響や形質転換能を明らかにすることを試みた。その成果を以下に示す。 1)EBNA1tgの作製とその性状-EBNA1はEBV由来潜伏感染核蛋白でp53安定性に関与した発がん活性が示唆されてきた。Igエンハンサー/polyoma初期遺伝子プロモーターの下流に連結されたEBNA1遺伝子をトランスジーンとしてB細胞特異的発現EBNA1tgを作製した。EBNA1tgのリンパ腫の自然発症率はコントロールと差は認められず、個体レベルにおけるEBNA1のB細胞の形質転換能は他のEBV遺伝子あるいは宿主遺伝的背景に依存している可能性が示唆された。 2)テトラサイクリン誘導性LMP1及びLMP2atgの作製-B細胞特異的かつテトラサイクリン投与によってLMPを発現するtg数:系統を樹立した。特にその中でLMP1発現誘導による初期B細胞分化異常が認められた。このことより、LMP1がB細胞の後期分化を修飾することは報告されていたが、それのみならず、B細胞初期分化を修飾することによって、免疫システムの脆弱性を増大し、感染成立に有利な状況を導き出していることを強く示唆している。
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