我が国においてE型肝炎は従前、E型肝炎ウイルス(HEV)の蔓延地域への渡航により感染し、帰国後に発症する輸入肝炎であると考えられていたが、研究代表者らは我が国にも固有のHEV株(遺伝子型3型および4型)が存在し、人獣共通感染ウイルスとして急性および劇症肝炎の原因になっていることを明らかにしてきた。HEVの人獣共通感染ウイルスとしての生態を血清学的、分子ウイルス学的に明らかにすることを目的として研究を行い、本年度はヒトへのHEV感染のreservoirであると考えられるブタ及びイノシシについて、以下の成果を得ることができた。北海道から沖縄県までの20道県、92農場、1425頭のブタについてHEV抗体およびHEV RNAの検出を行い、全国規模でブタのHEV感染が蔓延していることを明らかにするとともに、末梢血中のIgAクラスのHEV抗体とHEV RNAの出現が相関していることを示した。また、55頭のブタからHEV株を分離し、日本のE型肝炎患者由来のHEV株と近縁な関係にあることを示した。さらに、茨城県から熊本県までの12県で捕獲された野生のイノシシ87頭について検討し、山口県及び徳島県の2頭のイノシシからHEV RNAを検出した。そして既に感染を確認できている佐賀県の1頭分と合わせ、イノシシ由来のHEV3株の全塩基配列を決定し、我が国のイノシシにも多様性に富むHEV株が感染しており、それぞれが国内のE型肝炎患者及びブタ由来株と近縁の関係にあることを明らかにした。
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