我が国においてE型肝炎は従前、E型肝炎ウイルス(HEV)の蔓延地域への渡航に関連する輸入感染症であると考えられていたが、研究代表者らは我が国にも固有のHEV株(遺伝子型3型および4型)が存在し、人獣共通感染ウイルスとしてヒトの急性および劇症肝炎の原因になっていることを明らかにしてきた。HEVの家畜、野生動物等における感染実態を血清学的、分子ウイルス学的に明らかにすることを目的として研究を行い、本年度は以下の成果を得ることができた。 1.国内のブタ由来の3型HEV株の中でユニークな塩基配列を有する2株の全塩基配列を決定し、既報の3型HEVとの相同性が81-83%に過ぎないことを示し、我が国のブタに蔓延するHEV株が極めて多様性に富んでいることを明らかにした。加えて、モンゴル国のブタからも土着株と想定されるユニークな塩基配列を有する3型HEV株を分離できた。 2.愛知県内で捕獲された野生のイノシシを摂食後にE型肝炎を発症した4症例について検討し、ユニークな4型のHEV株を分離し報告した。またその後の検討により、実際に同地域の野生イノシシ2頭から近縁のHEV株を分離し、同地域の野生イノシシにHEV感染が蔓延している可能性を示した。 3.インドネシア、バリ島の散発性E型肝炎患者および飼育ブタから、互いに97.3-98.3%の塩基配列の相同性を示す4型HEV株を分離した。これは、流行性E型肝炎が主体である発展途上国においても、人畜共通感染症としてのHEV感染が存在していることを示すものである。 4.上記のようなHEV株の塩基配列の多様性を踏まえ、1 型〜4型の全ての遺伝子型のHEV株に対応し、ヒトのみならず、ブタ、イノシシ等の動物由来のHEVをも高感度に検出可能なRT-PCR系を開発した。
|