研究課題
本研究は、重症急性呼吸器症候群(SARS)の病原体であるSARSコロナウイルス(SARS-CoV)を、ラット型レセプター(ラットACE2)を発現する哺乳培養細胞で継代培養し、ラットに馴化したSARS-CoVを分離することを目的とする。平成17年度は1.ラットACE2のクローニングとラットACE2発現細胞の作製および、2.ラットACE2発現細胞におけるSARS-CoV増殖効率の解析を行った。ラット腎よりRT-PCRにて得られたラットACE2 cDNAを哺乳動物細胞用発現ベクターpcDNA3.1にクローニングした。また、ラットACE2の一部のアミノ酸配列をヒトACE2のアミノ酸配列に置き換えバリアント型ラットACE2を作製し、同様にクローニングした。CHO細胞にこれらの発現プラスミドを導入後、SARS-CoVを感染させたところ、バリアント型ラットACE2発現細胞ではウイルスは効率よく増殖したのに対し、ラットACE2発現細胞では、増殖効率はバリアント型ラットACE2発現細胞の約1/100と低いレベルであった。このことから、ラットACE2はSARS-CoVのレセプターとして十分に機能しないことが示された。本研究から、SARS-CoVはラット由来細胞に侵入する際にラットACE2を効率よく利用することができないと推測された。しかし、SARS-CoVなどのRNAをゲノムとして持つウイルスは培養細胞を用いて複数回継代することにより、ゲノムに変異を生じることが多い。このことから、ラットACE2発現細胞でSARS-CoVを複数回継代培養することにより、ラットACE2に依存したウイルスゲノムの変異の蓄積あるいはセレクションによりラットACE2に馴化したウイルスが分離される可能性が高い。今後、ラットACE2発現CHO細胞を用いたウイルスの継代培養を行い、分離されたウイルスの性状解析を行う予定である。
すべて 2006
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FEMS Immunol Med Microbiol. 46
ページ: 236-243