AIRE欠損NODマウスは、既に樹立しているAIRE欠損マウスを10代以上にわたりNODマウスに戻し交配して樹立した。AIRE欠損NODマウスではNODマウスにおける本来の標的組織である膵ラ氏島の破壊を認めなくなり、かわって外分泌組織である膵腺房細胞の著明な破壊像を認めた。この病理学的な所見に一致して、AIRE欠損NODマウスは糖尿病の発症に対して抵抗性を獲得していた。AIREを欠損させたNODマウスにおける臓器特異性の変化は、AIREが単に自己免疫病態の発症を規定するのみならず、どの臓器を標的として免疫破壊を行うかという、いわゆる臓器特異性にも関与していることを明確に示した結果である。したがって、AIRE欠損にともなう臓器特異性の変化がどのような分子および細胞学的メカニズムによって起こるかを明らかにすることで、多彩な病状を示す自己免疫疾患の病態理解に貴重な情報が得られるものと思われる。 他方、AIRE欠損NODマウスの血中に存在する自己抗体の対応抗原の一つを同定したところ、膵臓腺房細胞に発現するpancreas-specific protein disulfide isomerase (PDIp)であることが判明した。AIRE依存的自己免疫病態の発症機構として、AIREが胸腺上皮細胞内で種々の末梢自己抗原(peripheral tissue-restricted antigen)の発現を転写レベルで制御している可能性が示唆されている。しかしながら、AIRE欠損NODマウス胸腺におけるPDIpの発現は低下しておらず、このことからAIRE依存的自己免疫病態の発症にはAIREによるPDIp転写制御以外のメカニズムの存在が想定された。すなわち、AIREは胸腺上皮細胞内で種々の自己抗原の転写レベルを制御するのみならず、抗原提示過程を制御している可能性がある。
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