自己免疫疾患の多くは多因子疾患で病因解明は困難である。APECED(自己免疫性多腺性内分泌疾患I型)は1遺伝子AIREの異常によって例外なく発症する。AIREは胸腺髄質上皮細胞で強く発現し、成熟過程にあるT細胞との直接の接触により自己寛容に関わっていることが示唆されている。私たちはAIRE欠損マウスを作成し、さらに10代以上にNODマウス、BALB/cマウス、C57BL/6マウスに戻し交配した近交系マウスを免疫学的に解析した。AIRE欠損NODマウスでは対照NODマウスにみられない肝臓、肺、などにリンパ球浸潤が認められ、罹患臓器が拡大していた。また、NODマウスではランゲルハンス島に炎症が認められるが、AIRE欠損NODマウスではその周囲のリンパ球浸潤が顕著であった。したがってAIREは臓器特異性の決定にも関与していることが明らかとなった。一方致死量の射線照射したNODマウスに、AIRE欠損NODマウスの骨髄細胞を移植した場合、移植の影響は認められず本来のNODマウスが示すランゲルハンス島β細胞の障害が主な膵臓病変を示した。しかし、AIRE欠損胎仔胸腺をBALB/c背景のヌードマウスの腎被膜下に移植したところ、膵臓腺房細胞が主たる病変部であった。このことからAIRE欠損NODマウスの臓器特異性は胸腺間質組織によることが明らかとなった。さらに、C57BL/6背景あるいはBALB/c背景のAIRE欠損マウスの14.5日の胎仔胸腺をBALB/cあるいはC57BL/6背景のヌードマウスに移植し、6週間目に採材し臓器を病理学的に検討した。ドナーマウス、レシピエントマウス双方がC57BL/6である場合を除き、BALB/c背景のAIRE欠損マウスに特異的に胃炎が観察された。血清中の自己抗体を検討し、発症にはレシピエントマウスの骨髄細胞の関与が明らかとなった。 以上、AIRE依存的自己免疫病態発症は、胸腺間質組織の役割と骨髄由来細胞の働きの関与が明らかとなった。
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