T細胞は自己・非自己を認識する獲得免疫システムの司令塔的役割を担う免疫担当細胞であり、各種炎症時においても重要な役割を果たす。炎症局所に観られる低酸素環境が引き起こすT細胞の機能とHIF-1分子の発現との関連を調べることは、炎症病態を制御する臨床治療の見地からも重要である。最近申請者らは、独自に作製したHIF-1サブユニットARNT遺伝子のT細胞特異的欠失マウスを利用してT細胞免疫応答モデルを作製し、T細胞におけるHIF-1分子の機能を解析している。その結果より、HIF-1分子がT細胞依存性免疫応答に関与している可能性を見いだした。本研究では、独自に作製したT細胞特異的HIF-1機能不応答性マウスを利用することにより、(1)活性化T細胞の免疫応答におけるHIF-1分子の機能を明確にするとともに、(2)T細胞のHIF-1機能を制御することによる各種炎症に対する新規治療基盤の開発を目的とした。 本変異マウス由来の培養T細胞を利用しConAや抗CD3抗体によるT細胞活性化応答を調べたところHIF-1欠失T細胞もコントロールと同様の活性化応答マーカーの出現が認められた。しかし、一方、個体レベルでの実験系として、大腿動脈におけるカフ誘導性動脈硬化モデルを作製し動脈硬化に伴う炎症について形態組織学的に調べたところ、HIF-1欠失T細胞を有する変異マウスでは、有意にカフで覆った動脈内膜肥厚の増加および血管周囲のリンパ球特にB細胞の増加が確認された。これらの結果は、T細胞中のHIF-1a分子が何らかの形で生体内免疫機能に影響を及ぼすことを示している。現在、更に、T細胞が低酸素条件下においてTCR活性化が相乗的にその発現レベルを上昇させることと、個体レベルでの免疫応答の関係について、分子レベルでの解明を推進している。
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