細胞の形態変化、運動、およびシグナル伝達など、細胞の高次機能は細胞骨格の再構築により制御されている。このことは免疫系においても例外ではない。しかしながら、細胞骨格制御に関するこれまでの研究の多くは、繊維芽細胞などの免疫系以外の細胞を対象としたものであり、外来異物の貧食、リンパ球遊走、免疫シナプス形成など、免疫系の細胞高次機能発現のさまざまな局面において細胞骨格の再構築が重要な意味を持つであろうと考えられるにも関わらず、その分子レベルでの理解は進んでいない。 我々は細胞骨格を制御するシグナル伝達分子DOCK2に焦点を主にあて、各種受容体刺激から細胞骨格再構築に至るシグナル伝達を解明し、免疫系の発生、分化、構築や機能発現における各シグナル伝達系の役割を明らかにするために本研究を進めた。DOCK2欠損マウスにおいてVα14NKT細胞が著減することを見いだし、骨髄キメラマウスを用いてこれが胸腺内分化過程での抗原認識に起因することを明らかにした。さらに、DOCK2が好中球ケモアトラクタント受容体の下流で機能する主要なRac活性化分子であり、遊走や活性酸素産生に重要な役割を演じることを明らかにすると共に、生理的な条件下でDOCK2の細胞内動態を可視化できるノックインマウスを作製して、DOCK2がPI3K依存性に膜移行することを示した。また、GEF活性を有するVavが欠損すると、転写因子c-Mafの発現が障害されてTh2特異的サイトカインの中でもIL-4産生が選択的に抑制され、その結果としてTh1型の免疫応答が亢進することを見いだした。本研究において明らかとなったDOCK2をはじめとする細胞骨格制御分子の免疫系における役割をさらに詳細に解析することで、今後、アレルギー、自己免疫疾患や感染症といった免疫系疾患の治療法開発に向け、その分子基盤が確立されることが期待される。
|