B細胞の抗原受容体架橋によるActivation-induced cell death(AICD)は免疫寛容と抗体の成熟に関与している。タンパク質脱リン酸化酵素結合分子G5PRは、B細胞がAICDから回避するために必要である。本研究ではB細胞分化とG5PR発現誘導の関係を解析し、G5PRのB細胞クローン選択における役割を明らかにすることを目的とした。新生仔期C57BL/6マウス(生後4日以内)の脾臓の未熟B細胞と成体の脾臓B細胞とをフローサイトメーターによって分離し、抗IgM抗体刺激後の細胞増殖、AICDの感受性、およびG5PRのmRNAの発現量をRT-PCRによって比較、検討した。IgM^<1o>IgD^<hi>の成熟B細胞を抗IgM架橋によって刺激するとB細胞の増殖が起こり、それとともにG5PRの発現が上昇した。一方、IgM^<hi>IgD^<1o>の未熟B細胞は同刺激により細胞死が誘導されるが、この細胞ではG5PRの発現誘導は全く認められなかった。このことは新生仔マウスの未熟B細胞や非致死性放射線照射後に生じる末梢の移行期B細胞においても認められなかった。従って、成熟B細胞においてのみ発現上昇が起こるものと考えられる。さらに分化段階の異なるBTK欠損B細胞(CBA/N)とBTK^+B細胞(野生型)を用いてG5PRの発現誘導を比較した。その結果、G5PRの発現誘導とAICDからの回避は常に共同して見られ、その最終分化にはチロシンキナーゼBTKの存在が必要であることが明らかになった。抗IgM刺激によるAICDには未熟BにおけるCasapse-3依存性の細胞死と成熟B細胞におけるCasapse-3非依存性の細胞死があることが明らかとなった。そこでG5PRによる細胞死回避が未熟B細胞においても機能することができるかどうかを抗IgM刺激で細胞死を起こす未熟B細胞腫瘍株WEHI-231にG5PRを過剰発現させた系で抗IgM刺激を行った結果、明らかな細胞死の抑制効果を認めた。G5PRはその脱リン酸化酵素活性の制御機能によってpro-apoptotic分子Bimのリン酸化の持続やJNKの活性化亢進を抑制することが明らかになっている。末梢で抗原刺激を受けたB細胞が増殖・分化して抗体産生細胞になる過程で、抗原刺激依存性にAICDが起こる。成熟B細胞ではそのAICDから回避する必要があると思われる。抗原刺激が同時にAICDの発現誘導を起こさせるということは末梢のリンパ組織におけるB細胞の選択の機構を明らかにする上で重要であると考える。
|