T細胞の分化決定にNotch1およびGATA3が必須であることは遺伝子欠損マウスの解析から明らかであるが、その分子機構についてはほとんど解明されていない。報告者はこれまで、活性化Notch1(ICN1)の造血未分化細胞(HPC)での強制発現により単層培養系にてT細胞を誘導可能なこと、しかし、GATA3欠損HPCからのT細胞分化には、GATA3あるいはICN1の単独の遺伝子導入では不十分であり、両者の同時導入によってのみ分化誘導が可能なことを明らかにした。 本研究では、GATA3機能発現におけるNotchシグナルの生理的協調を明らかにすべく、胸腺移行前段階のマウス胎仔肝臓におけるNotchシグナルの発生について解析した。その結果、1)GATA3欠損胎仔肝臓(E11.5)を2日間器官培養した後、HPCにGATA3を遺伝子導入することで、ICN1に依存せずにT細胞分化を誘導することが可能であること、2)E11.5胎仔肝臓の器官培養にて、内在性Notch1活性化体の出現およびNotchシグナル標的遺伝子Hes1の転写が誘導されること、3)器官培養時にγ-secretase抑制剤を添加することにより上記の効果が消失すること、4)正常マウス胎仔肝臓では、E12.5よりNotch1活性化体およびHes1転写が観察されるようになること、5)これと同時期にNotch1リガンドの1つであるJagged1の出現が誘導されること、を明らかにした。以上のことから、胎仔肝臓の発生過程においてE12.5からNotchシグナルが発生し、これがT細胞分化誘導に重要なGATA3の機能発現に寄与している可能性が示唆された。我々は、Jagged1を介するNotchシグナルは単独ではT細胞を誘導できないことをすでに報告しており、GATA3機能発現とT細胞誘導が直接には結びつかないと考えられた。我々がすでに報告した内耳神経発生期において、Jagged1は細胞増殖抑制を介して分化制御を行っていることから、胎仔肝HPCのT細胞分化能の保持にJagged1が機能している可能性も考えられ、GATA3機能発現との関連が興味深い。
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