研究概要 |
補体系の古典的経路は抗原抗体複合体にC1が結合することにより活性化が開始する。一方、レクチン経路は免疫グロブリンを必要とせず、レクチンが病原体上の糖鎖に結合後活性化が起きる。レクチン経路は原索動物以上に、一方古典的経路は軟骨魚類以上に存在する。脊椎動物最下等の円口類ヤツメウナギ血清には哺乳類C1の亜成分のC1qに構造類似のレクチン(LC1q)がある。この事実は、レクチン経路が古典的経路へと進化したことを強く示唆している。本研究はLC1qおよび下等動物のレクチンの解析により古典的経路の起源の解明を目指すことを目的とした。本研究により以下の主な成果を得た。 1.ヤツメウナギには構造類似の3種類のセリンプロテアーゼ(MASP-A, MASP-B, MASP-1)が存在しており、LC1qにはMASP-Aが結合していることが既に分かっていたが、ウェスタンブロットの結果新たにMASP-1も結合していることが判明した。 2.LC1qはN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)に結合性を示すレクチンであるが、LC1q-MASP複合体は人工糖脂質のGlcNAc5-DPPEに結合後、ヤツメウナギC3を活性化した。 3.MASPに対する抗体による阻害実験を行ったところ、液相中におけるLC1q-MASP複合体中によるヤツメウナギC3の限定分解を、抗MASP-1抗体が阻害した。 4.ヤツメウナギより下等で、無脊椎動物の尾索動物亜門(原索動物)に属するエボヤ(Styela clava)の体液よりLC1qと同様にGlcNAcに結合性を示すレクチンを単離した。本レクチン画分にはセリンプロテアーゼ活性があり、ゲル濾過で分画するとセリンプロテアーゼ活性はレクチンと一致して溶出した。コラゲナーゼ処理により本レクチンは分解されたことから、コラーゲン様構造を持つことが推定される。また、分解フラグメントの分子量は、哺乳類C1qやLC1q分子が持つgC1qドメインとほぼ一致した。以上のことから、エボヤ体液にはC1qが存在し、これがセリンプロテアーゼのMASPと複合体を形成していることが示唆される。従って、古典的経路の起源は円口類よりも更に古い可能性が考えられる。
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