本研究の目的は、全人的医療を実践できる医師を育成するために、PBL-チュートリアル教育の教材として病理解剖症例を有効利用できる方法を開発し、学生が基礎医学から臨床医学までを一貫して学習できる医学教育の一方法を確立することである。 平成14年度から行ってきた病理解剖症例を用いた症例検討実習(症例基盤型学習)を、17年度も医学部3年生の病理学各論実習で実践した。今年度は肺癌(呼吸器系)症例と膵腫瘍(消化器系)症例を選択し、臨床経過・検査データ、放射線画像、病理解剖肉眼写真、肉眼実物臓器、組織標本からなる教材を各20部作製した。これにより、昨年度までの症例を併せて同様の教材が、呼吸器系2例、消化器系2例、循環器系1例、内分泌系1例の計6症例整備された。また、造血系、感染症系など他の疾患系列で、今後作製する症例の選定も行った。実習形態としては、これまでは大きな実習室でチュートリアル学習を行ってきたが、今年度からは解剖センターに隣接した芝蘭会館のセミナー室をチュートリアル室として各班が個別に利用できる体制を整えた。さらに、内科学1冊・診断学1冊・検査医学2冊の教科書を各班に貸与した。これらにより、学生は集中して議論できるようになり、充実した小グループ学習が実践できた。臨床経過を学習した後に肉眼実物臓器に触れることで、学生は生と死を実感するとともに新たなる発見や驚きを経験した。各症例の最終実習日には学生全員による討論会を行った。学生は、「肝脂肪化の機序は、・・」、「頻脈の病態生理は、・・」など基礎医学的側面を議論するだけでなく、「医療の限界を感じた。」、「早期発見法を医療コストを念頭に開発する必要がある。」、「少しでも早く診断できるよう医療人として最善を尽くすべきだ。」などの社会医学的側面にも言及していた。実習の教育効果が医学教育推進センターにも認識され、同センターはこの実習をより充実させる目的で実習室に有線LAN環境を今年度予算で構築した。今後は、教材をより充実させることで形態学ライブラリーを創設し、Web上でも教材を閲覧できることを目指す。
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