研究目的は、全人的医療を実践できる医師を育成するために、PBL-チュートリアル教育の教材として病理解剖症例を有効利用した基礎から臨床医学までを一貫して学習できる医学教育法を確立することである。 3年間で、肺癌、膵内分泌腫瘍、皮膚筋炎、悪性リンパ腫、肝硬変・肝癌、手術後肺動脈塞栓の6症例の臨床経過、理学的所見、検査データ、画像、肉眼臓器とその写真、組織標本の全てがそろった自学自習用教材を20セットずつ作成した。これで以前の症例と併せて呼吸器系2例、消化器系3例、循環器系2例、内分泌系1例、膠原病系1例、造血器系1例の計10症例が整備された。 医学部3年生でこの実習を実践したが、病理解剖症例という死亡例を学ぶことで、学生は生物学的規定の「ヒト」と社会学的規定の「人」における「死」を目の当たりにした。生理学や解剖学からとらえた「死」のみならず、薬害肝炎や医療関連死などの最近の医療問題も学生同士の熱心な議論を通して学ぶことができ、倫理面など医師として備えるべき資質を涵養できた。アンケート結果からも学生の評価は高く、この実習の継続が望まれ、今後の医学教育に役立つとの評価を得た。また、自学自習時に種々の疾患を容易に調べられるように形態学ライブラリーも構築した。日本病理学会の推薦疾患約150例に我々が必要と考えた約50疾患を併せた計200疾患で質の高い組織標本を揃え、これら全てをバーチャルスライド化した。これにより、学生は実習室や自宅のパソコンで実際の顕微鏡を使用しているかのように自由自在に動かして組織を閲覧できるようになった。また、学生はWeb上に公開されている教材を参考に、仲間の学生や教員と同じモニター上で組織像を指さしながら、質疑応答、議論がきるようになり、組織像を容易に、そして深く理解でき、さらには上記肉眼臓器との比較検討も行うことができた。
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