【目的】医学生の診断推論能力にろいての日米国際比較を行った。【方法】米国と日本の医学生を比較の対象とした。医学生に胸痛の仮想症例シナリオを提示し、運動負荷心電図の感度・特異度、検査前確率、検査後確率を回答させた。シナリオは典型的狭心痛、非典型的狭心痛、非狭心痛(冠動脈疾患の検査前確率が90%、46%、5%)の3種類を作成した。文献から得られる検査前確率と検査後確率(文献値)と医学生が回答した検査前確率と検査後確率(直感的推定値)の間の隔たりを比較検討した。【結果】医学生の内訳は、日本(4年生132人、5年生79人、6年生13人、計224人)、米国(2年生78人、4年生34人、計112人)であった。典型的狭心痛シナリオでは、日米両方の医学生が検査前確率、検査後確率とも過小に推定していたが、推定値は文献値に比較的近かった。日米間で有意差は認めなかった。非狭心痛シナリオでは、日米両方とも検査前確率、検査後確率を過大に推定していた。文献値からの隔たりは日本の医学生は米国の医学生に比べて有意に大きかった。非典型的狭心痛シナリオでは、日米両方で検査前確率の推定は妥当であったが、検査後確率の変化が小さい傾向があった。日米間で有意差は認めなかった。【結論】日米医学生の診断推論の特徴的な相違点として、日本の医学生は検査前確率が低い症例シナリオの検査前・検査後確率を米国の医学生に比べて有意に高く推定することがあげられた。この知見から、日本の医学生では、疾患をうまく除外できずいたずらに検査を繰り返す状況に陥りやすい診断推論プロセスが形成されていることが示唆される。このような診断推論プロセスが形成される原因として、疾患を見逃さないことを重要視し、除外診断を重視しない日本の伝統的教育態度にあるのではないかと推定された。
|