ヨード造影剤は腎障害を引き起こす代表的な薬剤の1つであり、とくに糖尿病や腎機能が低下した患者では発現頻度が高くなる。しかし、予防薬として確立された薬剤はなく、現在でも検査後の大量の輸液による排泄促進が最も有用な方法である。申請者らはこれまでに、ヨード造影剤が腎尿細管上皮細胞のBcl-2の発現を低下、Baxの発現を増加させ、ミトコンドリアからのチトクロームcの遊離によって、caspase-9及びcaspase-3を活性化し、アポトーシスを引き起こすことを明らかにした。さらに、このBcl-2低下には、c AMP/A kinase系のシグナル伝達障害が関係し、cAMP誘導体のdibutyryl cAMPおよびがprostaglandin I_2誘導体によるGタンパク共役型受容体刺激がヨード造影剤による腎障害を改善すること、c AMP/A kinase系の賦活がPI3 kinase-Aktリン酸化および核内転写調節因子のCREBリン酸化を促進することを明らかにした。 本研究では、造影剤が細胞膜のセラミド合成を促進させてアポトーシスを引き起こすのではないかという作業仮説を立て実験を行った。ヨード造影剤のioversolはLL-CPK1細胞を障害し、その障害はセラミドのデノボ合成阻害剤fumonisin B1およびL-cycloserineで抑制されたが、sphingomyelinase阻害剤のD609では抑制されなかった。ioversolはAktリン酸化の抑制、CREBリン酸化の抑制、Bcl-2の低下、Baxの増加およびcaspase-3の活性化を引き起こすが、それらの反応はすべてfumonisin B1により抑制された。セラミド類似物のC2 ceramideやAkt阻害剤のSH-6は、ioversolと同様に、Bcl-2の低下、Baxの増加、caspase-3の活性化、アポトーシスを引き起こした。LL-CPK1細胞膜において、多くの造影剤によるセラミド合成が免疫蛍光組織学的に確認された。片腎閉塞マウスでは、ioversolにより腎尿細管細胞障害の指標である尿中N-アセチル-β-D-グルコサミニダーゼレベルが上昇し、腎組織のpAKT減少、pCREB減少、caspase-3活性上昇が見られたが、いずれの反応もfumonisin B1の投与により抑制された。 以上の結果より、造影剤が細胞膜のセラミド合成を促進させ、細胞内蛋白に影響を与えることにより最終的にcaspase-3の活性化によりアポトーシスが引き起こされることが示唆される。
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