(研究目的)ヨード造影剤は、画像診断において必要不可欠な体内診断用薬であるが、造影剤腎症と呼ばれる急性の腎障害を引き起こすことが広く知られている。造影剤腎障害の発現機序には、腎血流量の低下や腎細胞への直接的な障害作用が関与すると言われているが、その詳細は未だに不明であり、現在臨床で行なわれている予防策は、輸液を用いた排泄促進のみである。本研究では、造影剤による腎尿細管細胞への直接的な障害作用に着目し、造影剤腎障害の発現機序の解明を行うと共に、発現機序に基づいた保護薬の探索を行った。 (研究方法)In vitro実験系は、培養腎尿細管細胞(LLC-PK1)を使用し、造影剤曝露後の細胞生存率の変化をWST-8法により測定した。造影剤により生じた腎細胞障害を、propidium iodide染色法やannexin-V染色法、TUNEL染色法により評価した。In vivo実験系は、片腎を結紮したマウスに造影剤を尾静注して腎症を誘発し、尿中N-アセチル-β-D-グルコサミニダーゼ(NAG)活性を測定した。保護薬にはプロスタサイクリン(PGI2)誘導体のベラプロストを用いた。 (研究成果)造影剤は腎細胞において、スフィンゴ脂質であるセラミドのde novo合成を活性化し、Aktリン酸化ならびにcyclic AMP(cAMP)-responsive element binding protein(CREB)のリン酸化を抑制し、Bax/Bcl-2の発現変化や、カスパーゼ-9およびカスパーゼ-3活性化に基づくアポトーシスを引き起こすことが明らかとなった。一方、ベラプロストは、腎細胞内のcAMPを上昇させ、造影剤によるBax/Bcl-2の発現変化ならびに、カスパーゼの活性化をいずれも抑制し、in vitro実験系のみならず、in vivo実験系においても造影剤による腎障害発現を保護した。
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