研究概要 |
亜鉛は脳内に豊富に存在する金属イオンであるが、その生理的役割には不明な点が多い。グルタミン酸作動神経の神経終末の小胞に貯蔵されている亜鉛は、虚血やてんかん発作の際にグルタミン酸と共に多量に放出され、神経細胞障害を引き起こすことが報告されている。アポモルフィン(Apo)は欧米でパーキンソン病治療薬として使用されているドパミンD_1/D_2受容体アゴニストである。前年度の研究では、Apoは神経細胞の酸化ストレスに対する抵抗性を亢進させることで酸化ストレスに対する保護作用を発揮することを明らかにした(J Neurosci Res 84,860-866,2006)。本年度は、亜鉛により惹起される神経細胞障害に対してもApoが保護作用を発揮するかどうかを検討し、Apoで神経細胞を前処置することで亜鉛による神経細胞障害が抑制されることを明らかにした。そこで、Apoの亜鉛障害に対する保護作用のメカニズムについて検討したが、Apoのこの保護作用にドパミン受容体やMAPキナーゼの関与はみとめられなかった。しかし、アポトーシス促進的に働くBH3-onlyタンパク質のPUMAについてその発現を検討したところ、PUMAの発現が亜鉛により亢進すること、Apoの前処理によりその発現亢進が抑制されることが明らかとなり、Apoが亜鉛によるミトコンドリアの機能障害を抑制している可能性が示唆された。また、これとは別に、我々は6-ヒドロキシドパミン(6-OHDA)による神経細胞障害に対する酸化還元酵素の補酵素ピロロキノリンキノン(PQQ)の保護効果について検討し、PQQが6-OHDAにより惹起されるROSの産生やSH-SY5Y細胞障害を抑制することなどを明らかにした(Neuorchem Res 32,489-495,2007)。PQQの亜鉛による神経細胞障害に対する保護作用についても検討したが、PQQにその効果は認められなかった。
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