研究概要 |
新生児低酸素性・虚血性脳症(HIE)は,周産期脳障害の主要な原因であり重篤な神経学的後遺症をもたらす.我々はHIEモデルラットの長期にわたる組織学的ならび行動学的検討から,HIE処置9週目より緩やかに進行する組織損傷に加えて進行的な学習・記憶障害を引き起こすことを発見した.この脳損傷は,従来のadultratsの脳虚血で生じる遅発性細胞死とは異なり,HIEに特有であることから,緩徐進行性脳損傷(slowly progressive brain damage ; SPBD, Neurosci LEtt 376, 194-199, 2005)と名付けた,本年度は,このSPBDの発症機序を解明するために,アスロトサイトの形態学的変化や脳脊髄液中のグルタミン酸,NO,コルチコステロン量を測定し,さらにHIE処置慢性期の脳脊髄液を採取し,正常動物の脳内に微量注入することでどのような行動変化を示すか検討した. 1)SPBDにおける視床・視床下部のアストロサイトとの関わり(GFAP染色,S-100蛋白染色) HI2時問処置後のGFAP染色ほ2,5,9,17週目の視床において,視床下部ではHI後9週目頃から徐々にGFAP陽性細胞が観察され,脳脊髄液に面した部分が濃染された.また,S-100染色は17週目の視床および視床下部に観察された. 2)SPBDの脳脊髄液中のグルタミン酸,NOx,コルチコステロンの変化 HI処置によるグルタミン酸は,HI処置2週目から17週目にかけて低下し,NOxはHI処置9,17週日に有意に増加した.また,コルチコステロン量は同じ時期に雌で減少する傾向を示した. 3)SPBDの脳脊髄液の正常動物への脳室内微量注入 HI処置17週目の脳脊髄液を採取し,選択反応時間課題(CRT)を習得したラットの脳室内に20-40uLを注入したが変化は認められなかった。 以上の結果から,SPBDは脳脊髄液に面した部分でアストロサイトの活性が認められたことから,今後,この進行的なアストロサイトの変化を注目することでSPBDの発症機序を明らかにする予定である.
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