本研究は、神経ガス中毒治療における血液脳関門(BBB)通過可能な新たな解毒剤の開発を目的としている。はじめに、有機合成した種々のパム類似体の中から解毒作用の強いものを選択する上で、従来からAChE活性測定法として知られているアセチルチオコリン(ASCh)用いた方法では、2-PAMを含めたオキシム類が容易にASChを分解することが確認され、これまで報告された多くの活性データについては再検証が必要であることが明らかとなった。次に、合成したパム類似体の中で、INMP(sarin類似体)によって阻害されたヒト血球AChE活性の復活の程度が比較的強かった化合物6種類、2-hydroxyiminomethyl-N-[p-(tert-butyl)benzyl]pyridinium(これを2-PATBとする。他は略称のみ記載する)、3-PATB、4-PATB、4-PAPE、4-PAD、4-PAOOを選択し、ラット静注によるLD50(mg/kg)を求めたところ、4.3〜21.9mg/kgと、2-PAM(約150mg/kg)に比べて極めて毒性の強いことが明らかとなった。そこで、LD50の10%濃度をそれぞれ調製し、ラット尾静脈から投与後、ブレインマイクロダイアリシス法により、1時間ごとに3時間までの透析液をラット脳より回収した。これまで、2-PAMの検出にはHPLC-UVを用いていたが、投与したパム類似体はいずれもUV吸収が極めて低く、検出が困難であったことから、LC-MS/MSにより検出を行った。その結果、4-PAPEと4-PAOが透析液中に検出され、BBBを通過する可能性が示唆された。
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