研究課題
血管新生阻害は癌や糖尿病性網膜症等の新規治療法として注目され、有効な阻害剤の開発が待たれている。細胞外マトリックスに存在するヘパラン硫酸は、血管新生促進因子の引き金としての作用を制御するが、海藻にはヘパラン硫酸に類似した特有の成分が、多種類、多量に存在する。このことから我々は海藻由来物質の血管新生阻害剤として活用を目指している。本研究の目的は、へパラン硫酸類似物質を含めた海藻固有成分が発揮する血管新生阻害活性を見つけ出し、血管新生性疾患の治療および予防に道を開くことである。我々は昨年度、微小な血管をネットワークとして観察できる鶏胚漿尿膜(chorioallantoic membrane : CAM)と、培養微小血管内皮細胞をアッセイ系として用い、褐藻に含まれる酸性多糖で抗腫瘍効果の強いフコイダンと低いアルギン酸の、血管新生における作用を解析した。今年度は更に、紅藻由来酸性多糖であるカラギーナン2種およびポルフィラン等の血管新生に対する作用を詳細に調べた。その結果、抗腫瘍効果と血管新生阻止活性が一致し、海藻由来酸性多糖の抗腫瘍効果の一部に血管新生の阻止が寄与している可能性が示唆された。しかしフコイダン等、硫酸多糖は高分子であり、吸収性を考慮すると低分子化が望ましい。そこでフコイダンを低分子化し、血管新生阻害活性を保持しているかどうか検討した。分子量約5,000に低分子化したフコイダンは、マトリジェル上で培養された微小血管内皮細胞の管腔形成阻害能を保持し、またCAM上の血管新生阻害活性も保っていた。低分子化しても、血管新生の阻止活性を保つことが明らかになったため、フコイダン等海藻由来硫酸多糖は、有効な血管新生阻害物質となる可能性が示唆された(第65回日本癌学会学術総会に発表(平成18年9月29日):琉球新報、沖縄タイムス(共に平成18年11月1日)に掲載)。新しい癌治療法の導入と予防の実用化を早めるために、今後は海藻由来硫酸多糖による血管新生阻害機序の解明について検討を進める。
すべて 2007
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Cancer Sci. 98・2
ページ: 219-225