研究概要 |
甲状腺から分泌されたT4は,生理作用を発揮するためには末梢の組織において生物活性を有するT3に変換される必要がある。T4をT3に変換する甲状腺ホルモン活性化酵素には,1型甲状腺ホルモン脱ヨード酵素(D1)と2型甲状腺ホルモン脱ヨード酵素(D2)が存在する。私達の検討により,D2はヒト骨格筋細胞,ヒト大動脈および冠動脈血管平滑筋細胞,ヒト甲状腺組織に強く発現していることが明らかとなった。本研究において,血小板由来増殖因子(PDGF)によって促進されるヒト冠動脈血管平滑筋細胞の増殖ならびに遊走を甲状腺ホルモンが抑制し,この抑制効果にD2による甲状腺ホルモンの活性化が関与していることを明らかにし,報告した。また,先天性のサイログロブリン遺伝子異常症では甲状腺腫をきたし,甲状腺癌を高率に発症することが知られている。サイログロブリン遺伝子異常症では,血中のT3がT4に比較して高値を示すが,その機序は明らかではなかった。本研究により,サイログロブリン遺伝子異常症の甲状腺組織ではD2の活性が亢進し,血中T3の高値に関与していることが明らかとなった。また,D2の一塩基多型(SNP)はインスリン抵抗性や糖尿病との関連が報告されているが,理化学研究所との共同研究により,D2のSNPの迅速解析法を確立し,報告した。 甲状腺刺激ホルモン(TSH)は,甲状腺のTSH受容体に結合し,甲状腺細胞の増殖ならびにホルモンの合成を促進する。私達は,高TSH血症を認めた症例において,我が国で最初のTSH受容体の遺伝子異常(R450HとG498Sの複合型ヘテロ接合体)を見出し変異TSH受容体の機能の解析に成功したが,本研究におけるTSH不応症例の解析により,V4731,R519CならびにR519Gの新たなTSH受容体遺伝子異常が明らかになった。これらはすべてR450Hとの複合型ヘテロ接合体であり,本邦においてはR450Hの頻度が高いことが示された。変異TSH受容体の機能解析の結果,TSHとの結合能,cAMPならびにIP産生能や細胞膜上への受容体の発現などの障害が認められ,その障害の程度は臨床的なTSH不応症の程度と相関がみられ,TSH受容体の変異がTSH不応症の病態に関連していることが明らかとなり,報告した。
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