研究概要 |
ヘリコバクター・ハイルマニ(Helicobacter heilmannii : H.heilmannii)は、ヒト胃粘膜に感染し、軽度の胃炎を惹起するものと考えられていたが、H.heilmannii感染関連ヒト胃悪性リンパ腫症例の報告がみられるようになった。我々は,スナネズミを用いた感染実験によってH.pyloriとH.heilmanniiにより惹起される胃粘膜病変の比較を行い、H.heilmanniiにより惹起される胃粘膜病変の解析を行った。その結果、H.heilmanniiが感染胃粘膜には、1)H.pylori感染よりも粘膜関連リンパ組織(Mucosa associated lymphoid tissue:MALT)の形成が目立つこと、2)さらにヒト胃粘膜に認められるMALTリンパ腫類似の病変が出現することを見出した。 今回我々は、遺伝子情報をはじめ、病態解析法の点で優れているマウスにH.heilmanniiを長期感染させることにより、胃悪性リンパ腫の動物実験モデルを作製し、胃悪性リンパ腫発生過程の病理・病態の解析を行うことを目的に,以下の研究を行った。 1.H.heilmanniiが感染ヒト胃粘膜からのH.heilmanniiの回収とマウスでの継代:H.heilmanniiは培養法が確立されていないため,H.heilmannii感染ヒト胃粘膜から回収したH.heilmanniiはマウスで継代維持する必要がある。今年度新たに収集した菌を加え,現在5菌株を維持している。いずれの菌株もDDYマウスにおいて同程度の慢性胃炎を惹起していることを確認した。 2.H.heilmanniiのタイピング:16Sribosomal RNAおよびurease遺伝子の解析から,現在維持している菌株は,いずれもH.heilmannii type1に属することが確認され,日本で感染がみられるH.heilmanniiはtype1が主体であるものと考えられた。 3.マウスの免疫系の免疫組織学的検討:マウス組織のホルマリン固定・パラフィン包埋切片を用いて,マウス免疫系の免疫組織学的検討条件検討を行った。以上の結果をふまえ,今後はTh1優位とされるC57BL/6マウスを用いたH.heilmannii長期感染実験モデルを作製して,H.heilmannii感染マウスの胃粘膜に惹起されるMALTからMALTリンパ腫類似病変に至る一連の病変を病理組織、サイトカインの変動、遺伝子発現の立場から解析する予定である。
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