ヒトTリンパ向性ウイルス1型(HTLV-1)感染により成人T細胞白血病(ATL)が引き起こされる。しかしながらATL発症にいたるのは5%未満であり、キャリアのなかでのATL発症リスクは一様ではない。本研究では、将来腫瘍化すると予測されるHTLV-1感染クローンの同定などによりATL発症前診断のツールを確立することを目的とする。この目的のため、10年以上フォローアップが行われ、その末梢血液が保存されていたHTLV-1キャリア54名についてプロウイルス量を経時的に測定した。その結果プロウイルス量1%未満のキャリア24名では平均0.28%から0.26%とほとんど10年間で変化がなかったのに対して、プロウイルス量1%以上の高ウイルス量キャリア30名では平均4.8%から3.4%へと有意に低下していた(p<0.005)。これはこれまでのHTLV-1無症候性キャリアの感染量は経時的に一定であるという考えとは異なる結果であり、高ウイルス量キャリアがすべてATLのハイリスク群ではないということを示唆するものと思われた。しかしながら、30名の高ウイルス量キャリア中には数名10年間でプロウイルス量の増加する個体が認められ、現在そのHTLV-1感染細胞クローナリティやT細胞レセプター再構成の解析をTanakaらの方法などにより行っている。またSasakiらにより新規癌関連遺伝子産物TSLC-1がATL細胞に特異的に発現していることが判明しており、現在TSLC-1の遺伝子発現などをリアルタイムRTPCR法により検討している。これらの研究を進めることにより、新規マーカーの組み合わせによるATL発症リスク評価を個体レベルで行うことが可能となり、臨床検査に応用できるものと考えられる。
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