ヒトTリンパ向性ウイルス1型(HTLV-1)感染により成人T細胞白血病(ATL)が引き起こされる。本研究では、将来腫瘍化すると予測されるHTLV-1感染クローンの同定などによりATL発症前診断のツールを確立することを目的とする。この目的のため、10年以上フォローアップが行われたHTLV-1キャリア84名についてプロウイルス量を経時的に測定した。その結果プロウイルス量1%未満のキャリア37名では平均0.29%から0.39%とほとんど10年間で変化がなかったのに対して、プロウイルス量1%以上の高ウイルス量キャリア47名では平均5.1%から3.4%へと有意に低下していた(p<0.005)。これは高ウイルス量キャリアがすべてATLのハイリスク群ではないということを示唆するものと思われた。さらに数名ではあるが10年間でプロウイルス量の増加する個体が認められ、現在そのHTLV-1感染細胞クローナリティをTanakaらの方法やT細胞レセプター再構成を検出する方法を用いて解析を進めている。これに加えて、新規癌関連遺伝子産物TSLC-1、プロテオーム解析、gene chipを用いた解析に着手している。今後これらのマーカーを用いて(1)長期にわたってキャリア末梢血液で維持されている感染細胞クローンの同定、(2)それらのクローンのプロウイルスDNA sequence・欠損の有無・染色体異常およびsomatic mutationの検討(3)長期感染細胞クローンを培養、クローニングし、その染色体異常およびsomatic mutationを同定などを進める予定である。これらの研究を進めることにより、新規マーカーの組み合わせによるATL発症リスク評価を個体レベルで行うことが可能となり、臨床検査に応用できるものと考えられる。
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