研究概要 |
有明海周辺は,Vibrio vulnificus(V.v)感染症の多発地域である.我々は,1年間にわたり有明海干潟汚泥,海水,魚介類中におけるV.vの季節別生息調査を行なった.その結果,海水温度が20℃を超える夏季には,海水および魚介類から高頻度に本菌を検出し,20℃を下回る冬季にも本菌が検出されたことから,V.v感染症になりやすいウイルス性もしくはアルコール性肝疾患や肝硬変,糖尿病,鉄剤を投与中等のハイリスクな患者に対しては,年間を通じて生の魚介類の摂食を控えるように啓蒙活動を行なってきた.しかし,久留米大学病院で,2004年11月の冬季にタイラギ(Atrina pectinata japonica)の貝柱を生のまま摂食したことによりV.vに感染し,敗血症性ショックで死亡した症例を経験した.当時,有明海沿岸では,貝柱漁は禁漁とされていた.また,この患者は1人暮らしであったために摂食した貝柱の産地を究明できなかった. そこで我々は,V.v感染症の新たな感染源として輸入魚介類の可能性もあると考え,久留米市の業務用流通店で販売されている輸入冷凍エビブラックタイガー(Penaeus monodon)についてV.v汚染度調査を行なった.その結果,フィリピン産100尾中9尾(9%),マダガスカル産100尾中0尾(0%),インドネシア産100尾中3尾(3%)よりV.vが検出された. これら検出菌についてcytotoxin hemolysin(vvh)遺伝子を検査したところ、V.v ATCC 27562株およびV.v感染症患者から分離された7細菌株と同様に,一部の輸入冷凍エビブラックタイガーより分離されたV.vはvvh遺伝子を保有しており、予測されたとおり新たな感染源となりうることが示唆された. 輸入冷凍魚介類はエビ以外にも多数あり、今後は,調査研究の範囲と数を増加させる予定である.
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