研究概要 |
リラキシン(RLX)は妊娠ホルモンのひとつとして発見されたが、その作用部位は生殖器官のみならず、脳や心臓にも見いだされ、その多才な役割が注目されている。従って、RLXを検出するための抗体が必要とされている。RLXはインスリンと構造が似ており、S-S結合でつながったA鎖とB鎖からなり、IA鎖内にS-S結合を持ち、前駆体のプロRLXからC-ペプチドがはずれて出来上がる。そのために、RLXのフラグメントでの免疫によりRLXを認識できる抗体を作製することは困難であった。一方、組織には半減期がRLXよりも長いプロRLXが有意に存在する。それ故に、RLXの組織内局在を検出するために、抗ヒトRLXのC-ペプチド抗体を作製し、これを1次抗体として用いた免疫組織染色法を確立した。抗C-ペプチド抗体は大腸菌で発現させたヒトプロRLXのC-ペプチド鎖をウサギに免疫して作製した。我々はヒト卵胞皮質切片の培養実験により、RLXが初期段階の卵胞の発育促進作用を有することを見つけた(J Clin Endocrinol Metab 90:516,2005)。そこで、この抗体を初期段階のヒト卵胞におけるRLXの局在の検討に応用した。原始卵胞、1次卵胞と2次卵胞の卵及び顆粒膜細胞に染色が認められた。一方、RLX受容体であるLGR7の卵胞における局在はin situ hybridizatonと免疫染色により検討した結果、ヒト原始卵胞の扁平な顆粒膜細胞、さらに1次、2次卵胞の顆粒膜細胞に存在が認められた。これらの結果から、RLXがヒトの卵胞発育の初期段階でその受容体を介して、オートクリン及びパラクリン機構で作用している事がはじめて明らかにされた。このようにして、RLXはヒト原始卵胞の成熟開始因子の一つである可能性を明らかにした。本研究で得られた抗RLXC-ペプチド抗体はヒトとブタにおけるRLX産生の局在の検討に有用であった。また、リラキシンの卵胞成熟作用と機序をさらに検討していくため、ヒトリラキシン(H2)の全合成も行っている。
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