高血圧症、肥満、心疾患等の慢性疾患の遺伝は多因子遺伝と考えられており、これらの遺伝子の影響とその組み合わせによる効果の検討、および遺伝子と宿主側の要因(生活習慣等)との組み合わせによる効果の検討を行う必要がある。本研究では、近年の調査結果をふまえ、LDL関連蛋白5(LRP5)遺伝子のA1330V、アドレナリンβ2受容体(ADRB2)遺伝子のGly16Arg多型を測定することとした。そして、日本の一般人でこれらの遺伝子が、糖尿病、高脂血症に影響を与えているのか、そしてその影響が、生活習慣など、これまでのリスクファクターと比較してどの程度であるか明らかにし、予防医学的に評価することを目的としている。本年度はまずLDL関連蛋白5(A1330V)遺伝子の測定を終了し、高コレステロール血症(総コレステロール値【greater than or equal】240mg/dL)の発症について検討を行った。pooled logistic regression解析により、A1330V遺伝子が、男性対象者において、毎年の年齢、BMI、飲酒、喫煙、運動習慣について補正しても、有意に高コレステロール血症の発症と関連していることが明らかになった。AV型の男性遺伝子保有者の、AA型に対する高コレステロール血症発症のオッズ比は、1.49(95%信頼区間:1.04-2.12)であった。また、その他の遺伝子多型の測定結果との組み合わせを検討したところ、GNB3/1429TT型と、LDL受容体関連蛋白5遺伝子(LRP5)の1330VV又はAV型の遺伝子を同時に保有する場合、男女とも高コレステロール血症を発症しやすいことが明らかになった。男性でも女性でも同様の結果が得られたことは重要な所見であり、今後高コレステロール血症を予測し、予防する上で、これらの遺伝子がマーカーとして役立つことが示唆された。また、ADRB2/Gly16Argについては、949検体について測定を行っており、現在男性でAA=183人、AG=179人、GG=185人、女性でAA=145人、AG=154人、GG=103人であった。今後測定をさらに進め、高脂血症や糖尿病発症との関連を調査する予定である。
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