研究課題
近年急増している乳癌、子宮体癌等の女性生殖器系のがんに環境化学物質が関与する可能性が指摘され、緊急かつ重大な社会問題となっている。発がんの多段階モデルでは、化学物質は腫瘍のイニシエーター(誘発物質)、プロモーター(発育補助物質)、あるいは、その両方として作用すると考えられている。女性ホルモンが乳癌を誘発することはよく知られている。女性ホルモンはそのエストロゲン活性により乳腺細胞の増殖を促進し、プロモーターとして作用する。アルコール摂取は食道癌、肝癌のみならず、乳癌のリスクを増大させることが明らかになってきた。本研究では、アルコールの摂取により生体内に生成することが知られているsalsolinol(Sal)に注目し、そのDNA損傷性と乳腺細胞増殖活性について検討した。^<32>Pでラベルしたがん関連遺伝子の単離DNA断片とSal、金属イオンを37℃で反応し、DNA損傷性を解析した。SalはCu(II)あるいはFe(III)EDTA存在下で濃度依存的にDNAを損傷した。酸化的DNA損傷の指標である8-oxodGは牛胸腺DNAを用いて反応し、HPLC-ECDで定量した。その結果、SalはCu(II)あるいはFe(III)EDTA存在下で8-oxodGを生成した。ヒト正常乳腺由来培養細胞MCF-10Aおよびヒト乳癌由来細胞MCF-7細胞を用いて細胞増殖活性を検討した。その結果、エストロゲン受容体を有するMCF-7での細胞増殖活性が認められ、また、エストロゲン・アンタゴニストの共存下では増殖が抑制されたことから、Salがエストロゲン受容体を介して活性を示すことが明らかになった。さらに、Salはヒト正常乳腺上皮細胞MCF-10Aでも細胞増殖作用を示し、抗酸化物質N-アセチルシステインによって増殖活性の低下が認められたことから、活性酸素を介する細胞増殖の経路があることが示された。アルコール関連物質であるSalは、酸化的DNA損傷性と乳腺細胞増殖活性を併せ持つことが明らかになった。したがって、Salがアルコールの乳癌発症における発がんのイニシエーションとプロモーションに関与する可能性が示唆された。
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