平成17年度の研究活動において以下のことが明らかとなった。 1.土佐打刃物製造工程における荒研ぎ作業における粉塵曝露の程度は粉塵曝露による呼吸器系疾患(塵肺)を引き起こすのに充分なものであった。 2.土佐打刃物業に従事する事業者は家族経営を基盤とする零細業者であるため、従来の産業保健サービスを受けられずにおり、粉塵曝露と塵肺発生の危険性について説明されておらず、そのため、事業所で粉塵対策を実施している事業所は少なかった。 3.打刃物事業者はその多くが職人として働けなくなるまで仕事をするため、通常、産業保健で職業病として発生する塵肺事例より長期間にわたり、鋼粉塵に曝露することとなり、一般的な疾病発症や悪化の論理が適応されない。 4.鋼粉塵中の遊離珪酸濃度は5%以下であり、酸化第2鉄が全体の6.4〜50.0%程度となっていた。 5.塵肺検診では、荒研ぎ作業経験者の約6割に胸部X線所見上のサイズpからqの粒状影が認められ、通常の珪肺所見とは明らかに異なるものであった。さらに、スパイロ・メトリーの検査結果では、肺機能の低下している者が多く、その内容は塵肺所見が軽度のものでも認められ、打刃物塵肺者は粒状影以外の肺所見も存在する可能性が指摘された。 6.以上の研究結果より、鋼粉塵曝露による塵肺は鉄肺であることが示唆された。さらに、今回の研究で判明した鉄肺の重症者に加えて、過去に鉄肺で死亡したと推定される職場における粉塵個人曝露評価から、酸化鉄粉塵の鉄肺への許容濃度が推定できた。
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