研究概要 |
産業化学物質によるアレルギー疾患の予防戦略として、動物を用いた感作性予知評価法の開発と現場におけるリスク評価への応用を目的として本研究を遂行している。初年度は、当初サイトカイン産生プロファイルを指標とした感作性の評価法を実用化する上での標準化を計画していたが、フローサイトメトリの不具合のため、本年度は呼吸器アレルギー反応の惹起試験法の開発を中心に実施した。マウスへの気管内直接投与法を用いて、既知の呼吸器感作性物質であるtoluene diisocyanate (TDI)およびtrimellitic amhydride (TMA)を被験物質とし、感作・惹起処置の濃度および基剤の種類による肺病理組織学的変化への影響を検討し、さらにヒトで呼吸器感作性が疑われているpyromellitic dianhydride(PMDA)による惹起試験を実施した。その結果、TDIでは0.01,0.05および0.1%の各感作濃度群で濃度依存性の好酸球性アレルギー反応が認められ、0.01%以下では観察されなかった。TMAにおいても0,0.05,0.1,0.25および0.5%の各感作濃度群で濃度依存性のアレルギー反応が観察され、それは0.1%以上では観察された。またTMAにおいては基剤に水系基剤を用いると、感作性がオリーブオイル基剤に比べて減弱した。これらの結果は、本試験法を用いることにより吸入感作性化学物質のアレルギー性気道過敏症を惹起できるだけでなく、その感作性の強度を感作濃度にもとづき評価できることが示唆された。また、使用する基剤により、評価結果が異なる場合があることが示唆され、TMAに関しては、水系溶媒を用いた場合TMAがtrimellitic acidに加水分解し、感作性が低下したと考えられた。PMDAにおいては0,0.1,0.25,0.5および1%で濃度依存的に好酸球を中心とする肺組織の変化が認められ、ヒトでの知見を支持する結果を得た。
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