研究概要 |
本研究は、行動試験において容易に異常が検出できる多動性障害モデル(胎生期5-bromo-2'-deoxyuridine, BrdU曝露)と、難易と考えられる自閉症モデル(胎生期バルプロ酸,VPA曝露)の2つの脳発達障害モデルを用いて、化学物質曝露直後の胎児脳への影響を組織形態学的に検討し、脳発達障害研究における胎児脳観察の評価法としての有用性を検討するとともに脳発達障害の臨界期の解析を目的とした研究である。 昨年度は、胎生期BrdU曝露による多動発現の臨界期は神経管閉鎖後に存在するがその期間は比較的広く、行動への影響は総投与日数に依存することを明らかにした。今年度はこの結果を基に、BrdU曝露直後の胎児脳への影響を組織学的に検討した。その結果、生後に多動性障害が認められたBrdU曝露時期(ラットの妊娠11、12、13日投与および妊娠14、15日投与)において大脳皮質板(CP)の形成異常(欠損、層構造の歪み)が認められ、その障害は多動性発現の臨界期と一致していた。 また、自閉症モデルとして、既報に基づき800mg/kgのVPAをラットの妊娠9あるいは11日に経口投与し、妊娠16日の胎児脳を観察した。その結果、妊娠9日投与群では胚死亡率が僅かに対照(生理食塩水)群と比較して増加した。また、両VPA曝露群ともにモノアミン神経系発生には影響は認められなかったが、大脳皮質前頭部におけるCPの低形成が観察された。 本研究結果から、臨界期を考慮した試験計画の導入により、脳発達障害の臨界期の存在はより明確になると考えられた。また、胎児脳観察は化学物質の神経発生初期への直接的な影響を検出することが可能であり、胎児脳所見を蓄積していくことにより、生後観察を補強しうる新たな脳発達障害の評価法となりうる可能性が示唆された。
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