研究概要 |
メタボリック症候群の中核である肥満対策は急務である.メタボリック症候群と遺伝子多型(SNPs)の関連研究は依然十分ではなく,また患者個別教育や予防医学の現場でそのSNPsの活用は今日的な課題である.本研究では,既存の生活習慣介入の他に行動科学的手法や遺伝子多型をはじめとした患者教育に従来用いられてこなかった検査指標を加えて,オーダーメイドな患者教育システムづくりを目指している.今年度は次の成果を認めた. 1)肥満関連遺伝子多型に関する研究 肥満に関わるSNPsについて既知のSNPsを基に関連研究を引き続き行った.健康教育を受けた280名の女性(平均52歳)を対象とし,体格指数や脂質・糖などの血液検査値とperoxisome proliferator-activated receptor γ2(PPARγ2;Pro12A1a)SNPを調べた.A1aアレルの保有はCRPなどの炎症に抑制的に作用する可能性が示唆され,メタボリック症候群の病態理解に資する結果と思われた.今後,SNPsと体重変動などの臨床情報を関連づけて介入効果を観察する予定である.また,101名の男女(平均72歳)を対象に血清グレリン濃度と頚動脈肥厚(動脈硬化)の負の相関も見出した.グレリンのSNPsの検討も加える予定である. 2)減量に対する行動科学的研究 SNPsに対する関心は一般住民にも流布しつつあるが,その中で代表的なβ_3-adrenergic受容体Trp64Argの情報を開示して健康教育を行うことは教育効果に影響するか否かを検討する教室も行った.肥満教室に参加した26名の男女(平均59歳)を対象に,SNPs情報の伝え方(肥満への関与度を複数の表現法で行うリスクコミュニケーション)と生活習慣の改変意識の関連を調べた.女性はリスクの数字の大きさで意識づけが高まる傾向はあった.実行した生活習慣要因や体格指数の教室前後の変化度との関係も調査したが明確な傾向は認めなかった.今後,さらに伝達方法の開発やリバウンドなどとの関連も調査していく予定である.なお,現時点では少なくともSNPsの周知による有害事象は認めていない.
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