研究概要 |
放射線被爆による白血病の発生リスクについては多くの疫学研究があるが、「前白血病病態」である骨髄異形成症候群(Myelodysplastic syndromes : MDS)については、これまで放射線被爆との関連を包括的に調査した疫学研究はなかった。本研究は原爆被爆者に発生したMDSの大規模症例集積を行い、放射線被爆のMDS発生に及ぼす影響を明らかにすることを目的とする。1980.1.1-2004.12.31までに長崎市で診断されたMDS症例647例を集積し、これを被爆者データベースと照合し、これまでに162例の解析可能な被爆者MDSを確定した。診断時年齢の中央値は71歳(42歳-94歳)、性別では男性83例、女性79例であった。被爆時年齢別では10歳以下17例、20歳以下58例、30歳以下47例、30歳以上40例、被爆距離別では1.5km以内24例、2.5km以内17例、3.0km以内16例、3.0km以上62例、入市被爆者など43例であった。FAB分類によるMDSの病型分類が確定した症例は135例(83%)で、RA 84例、RARS 8例、CMMoL 6例、RAEB 22例、RAEB-T 14例であった。1980.1.1時点で生存していた長崎原爆被爆者総数87,496人を母集団とした予備的解析の結果、粗発生率は10万人年あたり10.7人、単変量解析による相対リスク(RR)は、男性被爆者が女性より1.7倍高く、被爆距離に反比例して高くなり、特に1.5km以内の近距離被爆者は3.0km以上で被爆した者の4.3倍であった。病型別では、高率に白血病に移行する病型(RAEB,RAEB-T)の方が白血病移行の低い病型(RA,ARS)に比べ近距離被爆者のRRが高い傾向にあった(5.5 vs. 3.8)。来年度は長崎県がん登録や放射線影響研究所との連携を推進し、本格的な解析を行う予定である。
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