平成17年8月にモンゴルのウランバートル、オラーゴン及びダランザドガドにおいて、平成18年6月にはウンドゥクハーン及びチョイバルサンにおいて、健常モンゴル人各200名から、インフォームド・コンセントを取り、口腔内粘膜を採取した。計1000名の粘膜細胞試料からDNAを抽出・定量した。AmpF1STR Identifilerキットを用いて、15STRローカスの型判定を行った。また、ウランバートル97名、オラーゴン95名、ダランザドガド100名、チョイバルサン117名、ウンドゥクハーン84名の計493名の男性のDNA試料については、AmpF1STR Yfilerキットを用いて、17Y-STRローカスの型判定を行った。各地域集団の各STRローカスについて、アレル頻度を算出し、バーディ・ワインベルグ平衡の検定を3つの検定方法により行ったところ、3つのテスト全てで乖離が見られたローカスはどの地域集団にもなかった。これらの集団と日本人及び東・東南アジアの近隣諸国のヒト集団におけるデータベースを用いて、遺伝距離DAに基づくNJ法による系統樹、並びに多次元分析により、遺伝的関係を調べた結果、モンゴル人五地域集団は、一つのヒト集団群を形成し、その分布は地理的分布と非常によく一致していた。また、Y-STRsのハプロタイプ解析の結果から、日本人のハプロタイプの中に、日本人独自のクラスターを形成するハプロタイプ群が2つ観察された。 本研究により、モンゴルの各地域ヒト集団と日本人集団との遺伝的差異は、モンゴル周辺のヒト集団に比較して小さくはなく、これまで提唱されていた「日本人の起源」がモンゴルのブリヤート族であるという一つの仮説に対して、そうではない可能性もありえることが示唆された。これらの結果の一部は、日本DNA多型学会第15回学術集会(平成18年11月:福山)において発表された。
|