研究概要 |
【はじめに】法医実務では,内因性の突然(急)死症例の心臓には肉眼的,組織学的になんら所見を認めないことも少なくない.しかし,分子生物学的検査で生前の心臓の病理病態を解明できれば死因を推定するうえで重要な参考となる.ところで,虚血性低酸素と再酸化に応答して解糖系酵素の一つであるα-エノラーゼの発現が増加し,障害された心筋細胞の収縮性を改善するという報告がある.そこで,法医剖検心筋についてエノラーゼの発現量の比較と,2次元電気泳動像の観察を行なった. 【実験材料・方法】1)症例:当教室で剖検した56例(2ヶ月〜96歳,男40例,女16例).2)試料の調整:左室心筋約200mgをホモジナイズした後,遠心上清を試料とした.3)エノラーゼの検出:SDS-PAGE(12%ゲル)後,抗ヒトα-エノラーゼ抗体を用いて免疫プロット法にて検出した.4)エノラーゼ発現量の比較:ハウスキーピング蛋白質の1つであるβ-チューブリンを内部標準蛋白として,チューブリンに対するエノラーゼの発現量を比較算出した.5)2次元電気泳動:一次元目にキャピラリー等電点電気泳動(pH3.5-10),二次元目にSDS-PAGE(12%ゲル)を行い,ついでメンブレンに転写後抗エノラーゼ抗体を用いてエノラーゼスポットの発現様態を観察した. 【実験結果】1)Mizukamiらはラット心臓において虚血では非虚血に対してエノラーゼmRNA/G3PDmRNAが約2倍以上発現していることを報告している.今回エノラーゼ/チューブリン(E/T)比が2倍以上示した症例は56例中19例であった.56症例中心臓突然死と診断されたものが5例あり,この内3例がE/T比が2倍以上であった.2)56症例中2次元電気泳動解析を終えた11症例の内、E/T比が2倍以上の症例は5例あったが,11症例では明らかにpI変異したエノラーゼのスポットは観察されなかった.
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