本年度は4種類の向精神薬の迅速分析について以下の結果を得た。 1.生体試料直接注入HPLC/MS/MS迅速分析システムの確立および最適化 6種類のフェノチアジン系薬剤、5種類のベンゾジアゼピン系薬剤、5種類のブチロフェノン系薬剤および5種類の三環系抗うつ剤について、血漿および尿のバックグランドを対照として、各薬物のフラグメントパターンから最もイオン強度の高いかつバックグランドが低いフラグメントピークを選択し、selected reaction monitoring (SRM)の設定を行い、高感度定量法の最適化をを行った。また、生体試料直接注入法について最適化を行ったところ、HPLC流速を初期は0.5ml/分で蛋白類をWasteした後、流速を0.3ml/分にしてMSに接続することにより、分析時間が大幅に短縮され、10分以内に各薬剤が感度良く検出され、不純ピークとの重複が見られない迅速な分析が可能であった。なお、分離カラムは昭和電工製Shodex Mspak GF-310 4B(長さ50mm、内径4.6mm、粒径6μm)が最適であった。 2.実際例の応用 実験の内容を十分に説明した上、文書による同意を得たボランティア3名にdiazepam(10mg)、triazolam(0.5mg)およびamoxapine(50mg)をそれぞれ経口投与し、実際例での有用性について検討行った。Diazepamは投与1.5時間後、尿中から未変化体および代謝物であるoxazepam、nordazepamとtemazepamが感度良く検出され、尿中濃度は1.0〜2.5ng/mlであった。Triazolamとamoxapineは投与45および90分後、血漿中からそれぞれの未変化体が感度良く検出され、血漿中濃度がそれぞれ4.5および30ng/mlであった。 3.研究の総括 本研究では向精神薬類4種類についてマススペクトルライブラリーを構築し、生体試料直接注入HPLC/MS/MS分析システムによる人体試料中向精神薬類の迅速かつ簡便な検出法の詳細を確立することができた。また、本システムの使用により、臨床および中毒レベルの濃度の薬物検査が可能であったが、薬物異性体の分離は困難であることが明らかになった。
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