研究概要 |
ラットを用いて出血性ショックモデルを作製し,経時的に動脈圧と心電図をモニターリングした。虚血やアシドーシスなどの際に反応性に炎症性サイトカインの産生を促す細胞内シグナルの一つであるp38MAPK (Mitogen-activated protein kinase)の活性化を阻害するFR167653(FR)投与群と非投与群において,出血1,3および5時間後に心臓を摘出し,p38MAPKの活性化ならびに炎症性サイトカインのうち早期から上昇するTNF-αおよびIL-1βの発現を観察した。また,上記の2群について,各時間後の血清中CPK-Mbを測定して心臓傷害を,不整脈の出現,心拍数や動脈圧の変化など機能的障害を解析して,出血性ショック後の心臓におけるP38MAPK活性とそれに続く炎症反応の発現や臓器障害の関係について検討した。 FR非投与群の平均血圧は,最初は出血前102±6mmHgから出血後41±3mmHgへと低下したが徐々に昇圧し,出血40分後では一旦出血前に回復したが,その後は継続的に低下した。心拍数も同様の経過をたどった。また,心電図では出血3時間後から心室性不整脈が出現しその頻度は経時的に増加した。心臓組織中のp38MAPK活性は出血1時間後で最も強く上昇,TNF-α mRNAは出血1時間後で,IL-1β mRNAレベルは3時間後に最も強く上昇し,心臓血中のサイトカインレベルも同様の経過をたどった。また,5時間後には組織学的に血管腔内に好中球の集簇,心筋の好酸性化および間質の浮腫が観察され,さらに心筋傷害によるCPK-Mbの上昇を認めた。しかしFR投与群には出血による上記の変化は認められなかった。このことから,出血による心臓中の血流減少というストレスが心臓組織内でp38MAPKを活性化し,炎症性サイトカインの発現を促して好中球などの炎症性細胞のプライミングを引き起こし,最終的には炎症反応を介した心臓傷害が発生して,不整脈の出現など機能的な障害が生じると推測された。
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