研究概要 |
熱傷モデルを用いて,熱傷性ショックにおける心臓障害のメカニズムを検討した。すなわち,熱傷性ショックにおける心臓障害の指標として,心筋における好中球およびアポトーシスの発現に着目した。さらに,その発生におけるMAPKの果たす役割を,その産生阻害剤であるFR167653を投与して検討を行った。 方法:幼若雄Wistarラット(生後10日)を95℃10秒間熱湯へ浸漬し,熱傷モデル(熱傷面積:約20%)とした。熱傷2,6,24時間後にそれぞれ心臓を摘出し,組織学的変化,MAPK活性,TNF-αmRNAおよびIL-1βmRNAの発現,TNF-αの局在を観察した。さらに,好中球の出現率をMPO染色で,アポトーシスの発現をssDNA抗体を用い検討した。血清中のCPK-Mbを血清生化学的検査として測定した。次に,FR167653を熱傷前に投与し各群で同様の検討を行った。 結果および考察:熱傷2時間後からMAPKが活性化され心筋におけるアポトーシスの発現が,続いてTNF-αmRNAおよびIL-1βmRNAの活性化,さらには好中球の出現率のピークが熱傷6時間後に観察され間質性浮腫も著明であった。TNF-αの局在は血管内皮細胞および心筋細胞のライソゾーム内に,心筋内に出現した好中球のライソゾーム内でも観察された。血液中のCPK-Mbを指標とする心筋障害度は6時間後にピークが出現した。しかし,FR167653投与群には上記の変化は認められなかった。 このことから,MAPK阻害剤であるFR167653を投与することによりMAPKの活性化が抑制されそれに伴いサイトカインの産生阻止さらには炎症性細胞の集積が阻止され心筋障害の発生が阻止された。すなわち,サイトカイン産生経路の上位に位置するp38MAPK pathwayを阻害することにより炎症性細胞侵襲の阻止が生じ,ショック時の臓器障害発生に果たすp38MAPK pathwayの役割および臓器障害発生に果たす炎症性細胞(好中球)の重要性が考えられた。
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