研究概要 |
熱傷をうけた場合,熱傷そのものは重篤でなくとも一定時間経過後ショック状態となり多臓器不全を発生することがよく知られている。これまで申請者らは,幼若ラットでの熱傷モデルを用いて,熱傷性ショックに伴う心臓障害発生におけるMAPKの重要性を明らかにした。特に,好中球を主体とした炎症性細胞の果たす役割が明らかとなり,ショックにおける炎症性細胞の出現あるいはアポトーシスの発現が生体のショック状態を表す指標として有意義なものである可能性が考えられた。 今回,熱傷によるショック状態を表す指標として心臓におけるHsp70の発現をエライザー法で検討した。その結果,熱傷群で有意な上昇は認められなかった。また熱傷後の時間経過との明らかな関連も認められず,少なくとも幼若ラットを用いた今回の実験条件では熱傷負荷による心臓でのHsp70の発現は明らかではなかった。 次に,申請者らの教室において過去15年間の司法解剖821例のうち死後24時間以内の事例についてショック死の診断根拠を検討した。対照としては,失血,窒息,溺死および頭蓋内出血を用いた。指標として,好中球,アポトーシスおよびHsp70の発現を検討した。その結果,ショック死事例では,直接原因の発生から2時間以上経過していれば好中球の出現が明瞭であり,発生から2時間以内であればアポトーシスの発現が明らかであった。Hsp70に関しては死因による明らかな傾向は認められなかった。 これらのことから,直接原因の発生から時間の経過が2時間以上であれば器質的変化を組織検査で検討すると同時にMPO染色で好中球の出現率を観察し,2時間以内であればアポトーシスの発現を検討することによりショック状態に陥ったことを示唆する積極的根拠が得られるものと考えられた。
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