我々は慢性ストレスの生体への影響を様々な観点から検討してきた。一般に生体は同種のストレスを繰り返し受けると慣れが生じ、ストレス反応は減弱する。これはストレスに適応したかに見えるが、実は表面的な現象に過ぎず、慣れが生じた時点でそれまでとは異なった現象が惹起され(GR発現異常等)、それ以後も同種のストレスを受け続けるとそれまでのストレス反応とは全く異なった反応(セロトニン等の放出阻害等)を起こす可能性を述べてきた。 本研究ではソーシャルストレスで、うつ病の器質的な変化とも思われるGR遺伝子発現異常を惹起させうるのか、あるいは他のどのようなストレスが長期にわたるGR発現異常を引き起こすのかを中心に検討した。 (ソーシャルストレス) ソーシャルストレスを4週間負荷後、1ヶ月経過後の運動量と海馬GR発現量を測定し、ソーシャルストレス負荷群では対照群と比べ運動量の有意な増加と海馬GRの発現過多が認められた。 (母子分離ストレス負荷による海馬GR発現異常) 母子分離ストレスを仔マウス誕生から1週間負荷することにより、仔マウスは10週令になっても海馬GRの発現増加が認められたが、デキサメサゾン抑制試験では正常であった。 (母子分離ストレスによる行動異常) 母子分離ストレス負荷により、仔マウスが成獣(8週令以上)になってからの行動(運動量、高架式十字迷路)に関し検討した。その結果、母親の違いにより大きく異なり、母子分離ストレスの仔への影響は母親によっては解消される可能性が示唆された。 結論 4週間のソーシャルストレス負荷により、長期にわたり海馬GR発現増加が引き起こされる。 母子分離ストレス負荷による仔への行動学的影響は親の違いが大きく影響することが示唆されたが、海馬GR発現増加は長期にわたり(10週)引き起こされる。
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