【背景】パニック障害(不安、パニック発作、発作に対処できない状況の回避を主症状とし、QOL低下を伴う精神疾患)の治療法としてエクスポージャーを中心とした認知行動療法がある。これは、回避場面(交通機関や人ごみ等)に直面しながら発作や不安の制御を学ぶ方法であるが、外出での治療のため、機会も限られている。 【目的】バーチャルリアリティ(以下VR)ソフトウェア<回避対象として頻度の高い地下鉄環境のソフトウェア>を開発し、地下鉄を回避するパニック障害患者を対象に、診療室内でのVRエクスポージャーを中心とした認知行動療法(全6回)を行ない、質問紙(パニック障害重症度スケール、回避行動検査等)・日常生活下の症状(Computerized Ecological Momentary Assessmentの利用)の点から治療効果を比較することを目的とした。 【結果】既に4名に対しVRエクスポージャーを中心とした認知行動療法を終了した。パニック障害重症度スケールについては全例で症状の改善が得られており、発作が残った患者はおらず、いずれも通常の日常生活への支障はない状態となった。しかし、飛行機や船等あらゆる場面への回避行動を評価する回避行動検査や日常生活下の不安・身体症状の治療による変化については、改善がみられた患者がいる一方、変化のない患者がいるなど、患者間でのばらつきがみられた。 【結論】VRソフトウェアはパニック障害の改善に有効であり、診療室内での認知行動療法や、不安場面や回避場面への対処法の確認に用いることが可能である。なお、治療後には、各患者の残存症状を評価し、完治のない場合には治療を続行することが望ましい。今後は、VRエクスポージャー中の自律神経検査(心拍変動)の変化やその不安との乖離の有無を、現実場面におけるそれらと比較し、VRソフトウェアの現実感の評価のひとつとする予定である。
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