研究概要 |
これまでに我々は,恒常活性型変異MEK遺伝子導入細胞を用いてマイクロアレイ解析を行うことにより,MEK-ERKシグナルの下流では,非常に多くの癌の特性に関与する遺伝子の発現が変化することや,いくつかの薬剤の代謝に関与する遺伝子の発現にも変化がみられることを発見した.さらに,COX-2やマイクロアレイでピックアップされた薬剤感受性遺伝子など,このシグナルの標的分子を解明することにより,より毒性が少なくかつ抗癌剤の作用を増強させるような分子の発見ならびに併用療法の開発などが期待できると考えられた. そこでMEK-ERKシグナル経路の下流でcyclooxygenase-2(COX-2)が発現するという報告に基づき,CMVプロモーターによりラット正常小腸上皮細胞に恒常活性型変異MEK1遺伝子を導入してMEK-ERKのシグナルを恒常的に活性化させた細胞を用いてCOX-2の発現と,選択的COX-2阻害剤(NS398)の抗癌剤抵抗性に与える影響について検討した.上記細胞にてCOX-2発現の増強が認められ,COX-2選択的阻害剤にて処理すると,恒常活性型変異MEK遺伝子導入細胞の抗癌剤抵抗性は減弱した. 以上のことより,COX-2選択的阻害剤と各種化学療法との併用の有用性が示唆され,MEK-ERKシグナル経路は癌の新しい分子標的治療の重要な標的のひとつと考えられた.
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