私たちは、C型肝炎ウイルス(HCV)多発地区におけるコホート研究を通じて、感染既往者と感染持続者の遺伝子-塩基多型性(SNP)を比較検討することにより、HCV感染における感染防御の候補遺伝子として32遺伝子50SNPを報告した(Biochem Biophys Res Commun 2004:317:335-341)。その中で、とくに、HCVが宿主感染細胞膜と接合する際の、接着蛋白をコードする遺伝子に着目した。HCVは、細胞膜への接着に際し、陽性電荷状態にあるウイルス粒子と陰性電荷状態にある細胞膜表面に存在するHeparan sulfate prote proteoglycan(HS)のglycosamineなどの糖鎖と電気的に結合することが最近の研究で明らかとなった。宿主細胞膜上の陰性電荷は、HS糖鎖の硫酸基化によりもたらされる。昨年度に続き、今年度はHS表面の糖鎖の硫酸基化に関わるゴルジ体に局在する酵素の分析を更に進め、HCV感染既往者と持続者のSNPを比較検討したところ、脱アセチル化と硫酸基化に関与する酵素の候補遺伝子としてNDST3を同定するに至った。本酵素のSNPにつき連鎖不平衡ブロック解析を行った結果、NDST3遣伝子上にHCV感染感受性と関連する2つのハブロタイプを新たに同定した。またHCVの肝細胞膜への接合に際して接合蛋白遺伝子を中心にその周辺遺伝子のSNP解析について、HCV感染既往者と持続者の二次解析を行った結果、細胞膜の構成に必須のコレステロール生合成に必須のコレステロール生合成過程の重要な酵素であるTM7SF2遺伝子上にアミノ酸置換を伴う機能性SNPの同定に成功した。細胞内で、HCVは脂質ラフト上での増殖過程の重要性が示されている。そこで、今年度の研究において、米国より導入したHCVレプリコンシステムによるHCV in vitro増殖系を用いて、細胞のTM7SF2遺伝子の働きをsiRNAで不活化させたところ、HCVの細胞内増殖は抑制されることが明らかとなった。したがって、本酵素の不活化による脂質ラフトの形成阻害は、HCV増殖に影響することが解明された。本酵素遺伝子の機能性SNPが、個人間における細胞内HCV増殖能に影響を与え、その結果、個人間におけるHCV感染感受性に影響を与えている可能性が示唆された。
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