研究概要 |
本研究は当初の研究計画に示した項目につき、下記に示すごとく大きな研究成果が得られた。 1)ヒト腸管上皮細胞におけるMath1遺伝子の発現・機能を制御する上流因子の探索では腸管分化機構に重要な役割を果たすWntシグナルとの関連性を解析し、Math1蛋白安定性がWntシグナルによって制御されさらにβ-catenin蛋白安定性と正反対に制御されている事を明らかとした。さらにMath1がWntシグナル伝達経路のGSK3活性依存性にユビキチンープロテアソーム系の蛋白分解機構によって蛋白安定性が制御されることがわかりこれはβ-cateninと同様のシステムであり、GSK3がMath1かβ-cateninか選択することで分化シグナルと増殖シグナルを調節していることが示唆された。つまり分化と増殖を司る代表的なタンパク質がWntシグナルによってそれぞれ反対の制御を受けることで分化調節を制御することが解明され、腸管分化だけでなくWntシグナル伝達機構における新たな機能が示唆された。さらに本年度においてはMath1蛋白質のGSK3による標的配列を種々の遺伝子変異Math1プラスミドにてタンパク安定性を指標に探索し、Math1アミノ酸配列の54,58番目のセリン残基がGSK3のコンセンサスリン酸化部位であり、アラニンヘの置換変異株に置いてはタンパク安定性を獲得することを発見した。またさらに安定化Math1の遺伝子導入にて腸管上皮細胞株のムチン産生増加を認め、Math1タンパクの杯細胞分化能を確認できた。 2)ヒトMath1のターゲット遺伝子の網羅的解析においてはヒト腸管上皮由来細胞株を用い、テトラサイクリンによるMath1誘導発現系を確立したのちMath1を発現誘導した際のmRNAによるマイクロアレイを実施した。マイクロアレイにより15遺伝子の単離に成功した。本年度はさらにCHIP assayを用い標的遺伝のプロモーター部位にMath1が直接結合するか現在検定中である。 以上の結果をもとにMath1依存性の腸管分化機構と免疫能獲得の関連性を解析していく予定である。
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