研究概要 |
B型肝炎ウイルスのエンベロープ蛋白質であるHBV surface antigen (HBs)は、抗原特異的なリンパ球の標的になるだけでなくウイルスの複製に関与しているといわれている。今年度の研究課題として我々はHBVの新たな抗ウイルス療法の一つとしてsiRNAの手法を用いてこのHBsの発現を抑制することを目的とした。まずsiRNAの効果の持続性を考慮しsiRNA発現ベクターの作成に着手した。HBsをコードするシークエンス(data bank V01460)より1067,301,913,125の部分にターゲットサイトを設定し、sense、anti-senseのオリゴヌクレオチドを合成しsiRNA発現ベクターを構築した。現在作成したsiRNA発現ベクターの効果をHBV複製可能な肝細胞株であるHBV-Met cell line (J.virol ; 5646:2002)で検討中である。Preliminaryな実験において一つのsiRNA発現ベクターでHBV複製の抑制効果が認められており追試の段階である。次年度は追試にて再現性の確認を行い、現在飼育中であるHBsトランスジェニックマウスにsiRNA発現ベクターを投与しin vivoでの効果を検討予定である。さらにHBVのfull lengthのプラスミド(HBV dimer)をマウスに急速静注することにより生じる急性B型肝炎モデルの作成にも成功しておりsiRNA発現ベクターの効果を確認する予定である。また同時に、このsiRNAの実験と平行しHBVの複製を抑制するサイトカインの検討もおこない、その一つの候補としてmacrophage migration inhibitory factor (MIF)に注目し抗ウイルス効果の有無を検討した。MIFには直接的なHBVに対する複製抑制効果は認められなかったが、MIFの中和抗体の投与によりHBsトランスジェニックマウスに抗原特異的なCTLを投与することにより生じる劇症肝炎モデルにおいて肝障害抑制効果が認められた(Clinical Vaccine Immunology ; 415;2006)。この結果は抗MIF抗体が劇症肝炎の治療薬になりうる可能性を示しており今後の臨床研究への発展が期待される。
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