研究概要 |
我々は消化管粘膜の再生にRegenerating gene(以下Reg)遺伝子が深く関与していることを報告してきたが,近年,潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis;以下UC)患者の網羅的遺伝子解析の結果,Reg遺伝子がUC粘膜で最も強発現していることが報告された.そこで本研究では,UCおよびUCからの発癌におけるReg蛋白の役割について検討した.まず26名のUC患者におけるReg遺伝子の発現をrealtime RT-PCR法で評価したところ,Reg遺伝子は正常大腸粘膜に比べUC粘膜で著しく強発現していた.また,その発現強度はUCの炎症度程度と相関していた.そこでReg蛋白の発現局在を免疫染色法で検討したところ,Reg蛋白は炎症によって傷害された大腸上皮細胞に強発現することが確認された.興味深いことに,Reg遺伝子は発癌の危険度が高い長期罹患患者で有意に強発現し,実際UCを背景に発癌した大腸癌細胞にも強発現した.これらのことから,Reg遺伝子発現は,UC患者から発癌の危険度が高い患者を選別するのに有効である可能性が示唆された.次に我々は,大腸癌培養細胞を用いてサイトカインによるReg遺伝子の発現機序とReg蛋白の機能解析を行った.結果的には,IL-6とIFN-γの刺激によりReg遺伝子プロモーターの活性が増強し,Reg mRNAの発現増強も確認された.Reg蛋白の機能については,大腸癌細胞にリコンビナントReg蛋白を投与したところ細胞増殖能が亢進し,また,アポトーシス刺激に対する抵抗性が増強した.さらに,Reg蛋白の抗アポトーシス効果はAktシグナルを介したBcl-2とBcl-xLの発現増強と関連していることが明らかになった.以上のことより,Reg遺伝子はUC粘膜において炎症に伴ったサイトカイン刺激によって発現が増強し,その遺伝子産物であるReg蛋白の細胞増殖効果または抗アポトーシス効果がUCからの発癌に関与する可能性が示唆された.
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