ATBF1はヒトαフェトプロテイン遺伝子のエンハンサー領域に結合する蛋白として単離された転写因子で、4個のホメオドメインと23個のZnフィンガードメインを併せ持つ分子量400kDaにおよぶ巨大な蛋白である。最近、ATBF1は神経分化、筋細胞分化や穎粒球分化において発現増強することが報告されている。 肝再生におけるATBF1の役割を明らかにするために、まずはreal time RT-PCRを用いたATBF1 mRNA発現測定系を確立した。本測定系を用いて初代培養ラット肝細胞に肝細胞増殖因子(HGF)を添加し、ATBF1発現と細胞周期の関連遺伝子(サイクリンD1及びサイクリンB)の発現を検討した。ATBF1はHGF添加6時間後に発現が低下し、48時間後まで発現が抑制された。一方、サイクリンD1の発現はATBF1発現抑制に伴って増強し、HGF添加36時間後にピークとなった。サイクリンBの発現はHGF添加36時間後に一過性に増強された。一方、2-acetylaminofluorene(2AAF)を投与して成熟肝細胞の増殖を抑制した状態で部分肝切除を実施すると、門脈域にoval cellと呼ばれる卵円形の核を持った小型の肝前駆細胞が出現する。HGFはこのoval cellの増殖及び肝細胞分化を促進する。この2AAF/部分肝切除モデルにおいてATBF1の発現を免疫組織化学染色を用いて検討した。ATBF1は成熟肝細胞の核内に発現しているが、oval cellでは核のみならず細胞質においてもATBF1発現が認めらた。HGFを投与すると、oval cellの核におけるATBF1発現はむしろ低下した。HGF投与によってovalcei1の増殖及び肝細胞分化が促進されATBF1発現解析時にはoval cell増殖(細胞周期)は収束に向かい、肝細胞への分化していることが推測された。
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