研究概要 |
(1)培養大腸癌細胞におけるCA-RP VIII蛋白発現のon/off調節と細胞動態に及ぼす影響 1.培養大腸癌細胞(LoVo)にCA-RP VIII遺伝子を導入し、同蛋白の高発現細胞株(LoVo-CA8)を樹立した。In vitroの検討では、LoVo-CA8はLoVoに比べ細胞増殖能(MTTアッセイ、コロニー形成)と浸潤能(ケモタキシス・チャンバー・アッセイ)の有意な増強を認めた。また、両細胞株300万個を4週齢ヌードマウスの背部に移植した結果、8-21日後の腫瘍径はLoVoに比べLoVo-CA8が有意に大きかった。 2.pSilencerベクターを用い、3種類の塩基配列を選びsiRNAによりCA-RP VIII蛋白発現を抑制した。その結果、大腸癌細胞(HCT116)において2つのsiRNAでCA-RP VIII蛋白の発現抑制が得られ、発現が抑制されたHCT116細胞の増殖能およびコロニー形成能は有意に低下した。 3.上記1、2の結果より、CA-RP VIIIは大腸癌の増殖を促す作用のあることが示された。 (2)CA-RP VIIIにより発現の変化する遺伝子のスクリーニング(マイクロアレイ) 4.上記で作製したLoVo-CA8およびLoVo細胞を用い、2万個の遺伝子発現の変異をマイクロアレイによりスクリーニングした。発現の変異した遺伝子のうち、数個についてはreal-time PCR法によりmRNA発現の変異を再確認した:Na^+/K^+/2Cl^- cotransporter(アレイで5.75倍、real-time PCRで3.75倍)、Annexin I(各々0.23, 0.041倍)、Laminin β3 subunit(各々0.18、0.192倍)。 5.さらにLaminin 5の他のsubunitについて検討した結果、β3に加えα3およびγ2 subuitのmRNA発現の低下も認められた。他の4種類の大腸癌細胞株でもLaminin 5のβ3およびγ2 subunitの発現は低下していた。Laminin 5の発現低下は癌細胞の増殖、浸潤能を増強することが報告されており、CA-RP VIIIは何らかの機序によりLaminin 5の発現を抑制し、大腸癌細胞の増殖、浸潤能を高めている可能性が示唆された。 (3)膵癌におけるCA-RP XIの発現検討 6.培養膵癌細胞10株において免疫組織染色により3種類のCA-RPの発現を検討した。その結果、CA-RP VIIIが6細胞株、CA-RP XIが2細胞株で発現していた。CA-RP Xの発現はすべての細胞株で陰性であった。 7.膵癌の手術材料18例ではCA-RP VIIIの発現は見られなかった。一方、CA-RP VIIIの発現は手術材料9例中7例で確認された。正常の膵組織ではCA-RP VIIIは腺房細胞に、CA-RP XIは一部の腺房細胞とラ氏島細胞に発現が見られ、導管細胞には発現が見られないことより、膵癌におけるCA-RP XIの発現増強が確認された。
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