【目的】我々はこれまで、家族性胃癌患者においてFerritin H鎖遺伝子のiron responsive element(IRE)領域に点突然変異(A49T)が認められる家系を複数報告した。本研究では、変異H一フェリチン遺伝子の導入実験及びトランスジェニックマウスを作成することにより、この遺伝子が家族性胃癌の原因遺伝子であるかどうかを検討した。 【方法と結果】(1)変異H-ferritin遺伝子の導入実験:A49T変異H-ferritin遺伝子をCOS-1細胞に導入すると、8-hydroxy-deoxyguanosine(8-OHdG)などのDNA変異源性塩基が増加することが明らかとなった。 (2)ノックインベクターの作製:マウスBacクローンよりPCR法によりH-ferritin遺伝子を増幅してサブクローニングし、同遺伝子のIRE-loopのsecond baseにA/T変異を導入した。このA/T変異を含むfragment、splice acceptorであるen-2、encephalomyocarditis virus(EMCV)のinternal ribosome-entry site(IRES)、β-galactosidase、β一geo及びSV40のpolyA signalを含むノックイングベクターを作製した。(3)マウスES細胞への遺伝子導入と胚細胞へのインジェクショシ:マウスのES細胞にエレクトロポレーション法によりノックイングベクターを導入し、G418耐性の68クローンを獲得した。これらのクローンよりDNAを抽出し、PCR-RFLP法により15個のノックイン細胞を獲得し、更にシークエンス解析により9個のクローンを確認した。これらのクローンを、ブラストシストにインジェクションしてキメラマウスを作成し、野生型マウスと交配してヘテロマウスを作製した。現在、まだ週齢が若く、これから発癌の有無を検索する予定である。 【結論】A49T変異H-ferritin遺伝子の発現により8-OhdGが増加し発癌に関与することが示唆された。マウスH-ferritin遺伝子のノックインベクターをES細胞に導入し、キメラマウス及びヘテロマウスを作製した。現在、これらのマウスを観察し、発癌の有無を調べる予定である。
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